3月の植物

ジンチョウゲ Daphne odora Thunb. / ジンチョウゲ科

  • ジンチョウゲ / 花を切り開いたところ

中国原産の雌雄異株の常緑低木。室町時代にはすでに日本に渡来していたという記録があるようです。庭園や公園に植えられ、強いかおりで花の開花に気づく方も多いことでしょう。
高さは1~1.5m、枝は暗紫褐色で密に枝分かれします。葉は密に互い違いにつきます。先がややとがった楕円形の葉は革のような質感で厚みと光沢があります。花は2~3月で枝先に20個ほどの花が集まってボール状になって咲きます。一つの花は長さ2㎝程度、ジンチョウゲ科の花は花びらが退化してなく、紫色の花びらに見える部分はがくです。外側は紫色で、花が開いた内側は白色で光が当たるとキラキラと光ります。中を開いてみると8本のおしべが長短2列に並び、1本のめしべが見えます。
日本には雄株しかないので果実はできないと言われていますが、見た目は両性花です。ジンチョウゲは中国でも自然分布域が明らかでなく雌株が少ないことも含め分からないことが多いようです。まれにできる果実は卵球形で赤色です。

2024.3

サンシュユ Cornus officinalis Siebold et Zucc. / ミズキ科

  • サンシュユの花
  • サンシュユの花 拡大

朝鮮半島と中国が原産の落葉樹。日本には江戸中期に薬用植物として渡来しました。今では花木としても庭園によく植えられます。葉は先のとがった卵型で、裏には短い毛があります。葉は向かい合ってつきます。長い枝に向かい合って付く枝は短く、その先端に花芽ができ、早春の葉が出る前の3月に黄色の花を咲かせます。小さな花が束になってつき、一つのかたまりは直径2~3㎝、小さな花は4枚の花びら、4本のおしべと1本のめしべがあり大きさ3㎜ほどです。めしべの付け根の光っているところは蜜を出している花盤です。秋にはグミに似た長さ1.2~2㎝ほどの楕円形の赤い実をつけます。中に種子がひとつあります。種を抜いた果実は「山茱萸(さんしゅゆ)」といい薬用に用いられ果実酒にもなります。観察園のものは鳥に運ばれて育った実生です。現在高さ3mほどになりました。果実はまだついたことがないのですが、年ごとに成長して花数も増えているので今後が楽しみです。

2023.3

ネコヤナギ Salix gracilistyla Miq. / ヤナギ科

  • ネコヤナギ(雄株)
  • 一つの花の拡大

北海道から九州にかけて川辺に生える落葉低木。雌雄異株で観察園にあるものは雄株、高さ1mほどです。
春一番に出てくるふさふさは小さな花の集まりで名前の通り猫のしっぽを思わせます。一つのふさふさは長さ3㎝ほど、ごく小さな花が集まっています。
ネコヤナギの花のつくりはとてもシンプルで花びらはなく、一つの花は長さが3~5㎜、赤紫色の苞葉(ほうよう)には銀色の毛がたくさん生えています。
苞葉とは葉が変化したもので花の器官を守る役割があります。付け根には若いおしべの葯(やく)があります。花糸がのびて葯が花穂より飛び出て花粉を放出した状態が開花となります。
花粉は黄色です。風媒花で風の力を借りて花粉を飛ばし、雌花のめしべに付けばのちに綿毛に包まれた種子ができます。葉が出てくるのは花が咲き終わった後です。

2022.3

アオキ Aucuba japonica Thunb. var. japonica / アオキ科

  • アオキ
  • アオキの雄花(左)と雌花(右)

東北以南の本州・四国・九州・沖縄と台湾、韓国に自生する常緑低木。古い樹皮は灰褐色ですが、若い樹皮は緑色で、葉も幹も青々としていることが名前に由来しているようです。楕円形で周りにぎざぎざのある葉は革のような質感で厚みと光沢があり、向かい合ってつきます。雌雄異株で開花は3~5月です。どちらも花弁は4枚ですが雄花序のほうが大きく、花もたくさんつけるので目立ちます。果実は長さ12~20mmの楕円形で、中に大きな種が一つ入っています。12月ごろから果実は観察されますが、赤く色づいてくるのは3月以降です。4月以降だと果実と花を一緒に観察できることもあります。観察園では鳥に食べられてしまうのか、赤い実がたわわになっている姿はなかなか見ることができません。耐寒性と日陰にも強く育てやすいので庭木としてよく用いられ、色々な園芸品種があります。果実の色や葉の斑は様々です。

2018.3

セリバオウレン Coptis japonica (Thunb.) Makino var. major (Miq.) Satake / キンポウゲ科

  • セリバオウレン
  • セリバオウレンの雄花(左)と両性花(右)

本州の山地の林床に生える常緑多年草。高さ15~30㎝ほど、葉はセリのように細かく切れ込んでいます。3~4月に花茎を立ち上げ、白い花を数個ずつつけます。雄花の花茎と両性花をつける花茎があります。一つの花は直径1~1.8㎝、花びらに見える大きなものはがくが変化したもので5~6枚あります。花びらはがくの半分ほどの長さで5~10枚、それ以上の時もあります。雄しべは多数、めしべは8~14本です。めしべは細長い袋状の果実をつくります。柄が伸びて放射状になった姿は車輪のようです。こぼれ種でもよく育ち、観察園のものも種子から育てて4年ほどで開花するようになりました。食糧の少ない春先には目立つのか、鳥に食べられてしまうこともしばしばです。オウレンの仲間の根はどれも薬用となり、健胃薬や止瀉薬の原料として用いられます。

2018.3

ヒメリュウキンカ Ficaria verna Huds. / キンポウゲ科

  • ヒメリュウキンカの花
  • リュウキンカ

ヨーロッパやシベリア原産の多年草。林床の湿り気のあるところを好みます。春一番に咲き、早春を告げる植物の一つです。観賞用に導入されたもので、今では逸出して野生化しているところもあるようです。いくつか品種もあります。高さ10~15cm、葉はハート形をしています。冬のうちに葉を出して、春一番に花茎を立ち上げ、直径2~3㎝の光沢のある黄色い花を咲かせます。花びらのように見えるのはがくです。花が咲いた後は地下に栄養をため、夏が来る前に地上部は枯れてしまいます。

ヒメリュウキンカによく似ている日本産の植物にリュウキンカがあります。こちらは背丈が高く、60㎝ほどにもなります。生育場所は全く異なり、リュウキンカは高山の湿地などミズバショウなどが咲くようなところに生えます。名前は似ていますが生育するところも属も異なり、親戚としては遠い関係になります。

2017.3

ウチワノキ Abeliophyllum distichum Nakai / モクセイ科

  • ウチワノキの花
  • ウチワノキの果実

朝鮮半島原産の落葉低木で、雌雄異株。昭和の初めに導入された比較的新しく珍しい植物です。高さ1mほどで株立ちに枝が出て、地面につくとそこから根を出します。春一番、葉が出る前に白色で花びらが4つに裂けた花を咲かせます。花びらの先端に少しピンクが入ってかわいらしいです。枝から数個ずつまとまってつきます。一つの花は長さ1㎝位と小さく、よく見ると色は違いますがレンギョウの花とよく似ています。別名シロバナレンギョウともいうそうです。花のあと楕円形で先がとがった葉が向かい合って出ます。果実には翼があり、直径2㎝ほどのうちわのような形になります。観察園の株は雄株かと思っていましたが、昨年2つ果実をつけました。今年はもっと「うちわ」が見られるでしょうか。これからの成長が楽しみです。

2017.3

ジンチョウゲ Daphne odora Thunb. / ジンチョウゲ科

  • ジンチョウゲの花
  • 花の拡大

中国中部から雲南、ヒマラヤにかけて分布する雌雄異株の常緑低木。日本には室町時代の中期以前に渡来したようで、その時には雄株しか伝わりませんでした。高さは1mほどにしかならず、花にはよい香りがあるので公園の植栽や庭木などによく利用されます。葉は肉厚で無毛、光沢があります。ほとんど葉柄はないので直接葉を枝先にまとめてつけているように見えますが、よく見ると互い違いに出ています。早春の2~3月、昨年の枝の先に集まって花をつけます。花びらはラッパ状で先が4つに裂け、外側は濃紅色、内側は白色です。ジンチョウゲの花には毛がありませんが、よく似たコショウノキには花の外側に毛があります。ジンチョウゲは近年中国から雌株も導入されたようです。果実のついたジンチョウゲをどこかで見かけることができるかもしれませんね。

2016.3

オニシバリ Daphne pseudomezereum A.Gray / ジンチョウゲ科

  • オニシバリの花
  • 花の拡大

福島県以南の本州、四国、九州の山林内に生える雌雄異株の落葉低木。高さ1m未満の小さな木です。この木は夏の間だけ落葉して、秋から初夏には葉をつけるという変わった生態をしています。別名「夏坊主(なつぼうず)」とはうまく付けられたものです。黄色いジンチョウゲのようにも見えますが、葉の質感は異なり、厚みは薄く、上面は明るい緑色、下面は少し粉白色を帯びています。葉に毛はなく、互い違いにつきます。花は3~4月ごろで、枝の上部の葉のわきに少しずつ固まってつきます。先が4裂したラッパ状の花全体が黄色です。よく嗅いでみるとスイセンの香りに似た香りがすこしあります。雌株では楕円球状で赤い果実ができるようですが、観察園のものはどうやら雄株のようです。

2016.3

コブシ Magnolia kobus DC. / モクレン科

  • コブシの花
  • コブシのつぼみ(左)と鳥に食べられた花(右)

落葉高木で、山地、低地に生え、庭木や街路樹にもよく利用されています。高さ15m以上の大木となることもあります。ハクモクレンより花の大きさはかなり小さく、花びらが薄くぺらぺらした感じです。またハクモクレンの花びらは9枚ですが、コブシでは6枚です。タムシバとは大変よく似ていますが、コブシは葉を1枚つけて花を咲かせることで見分けることができます。

毎年ではありませんが、花びらはヒヨドリを中心とした鳥たちの食糧となるようで、花を食べられ丸坊主になることがあります。哀れな姿ですが、花の中はよく観察できます。中心には緑色の柱状になった雌しべの集まりがあり、その周りをたくさんの淡黄色の雄しべが取り囲んでいるのが分かります。コブシの花は、冬の間少ない食料でひもじい思いをしていた鳥たちにとっては春一番のみずみずしい恵みなのでしょう。

2014.3

キブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. / キブシ科

  • キブシの花
  • キブシの葉(左)と雄株にできたキブシの果実(右)

北海道、本州、四国、九州、小笠原に自生する落葉低木。山の斜面の明るい場所に生えます。高さは3mくらいが一般的です。春、葉が出る前に長さ7~9mmの鐘形の花を房状に咲かせます。雌雄異株で雄株の花は淡黄色、雌株の花は緑色を帯びています。観察園のは雄株です。花びらは4枚で、4枚のがく片のうち2枚が大きくなって花びらのように見えます。雌花には退化した小さな雄しべがついているだけに対して、雄花には雌しべもついているので、たまに実を結ぶことがあります。花が終わる頃から葉が出はじめ、先のとがった卵型の葉を互い違いにつけます。

葉の形や大きさ、果実の大きさには変異があり、多くの品種や変種があります。

2014.3

フクジュソウ Adonis ramose Franch. / キンボウゲ科

  • 野生のものは石灰岩の山のふもとなどで見かけます。一方、むかし人が植えたものが、山村などでひっそり咲いていることもあります。

「福寿草」というおめでたい名前の多年草です。北海道から九州の山林に生育しますが、最近は野生のものはなかなか見かけません。フクジュソウやセツブンソウなどの花は、早春、葉の落ちた林に降りそそぐ日差しの中で他の植物より一足早く咲きます。木々の葉がしげって日陰になってしまう前に、自分たちは光合成をして養分を地下にたくわえ、果実 までつけてしまいます。そして多くのものは、夏ごろには店じまいし、地上部の葉や茎は枯れてしまいます。このような植物を、英語でSpring ephemeral(スプリング・エフェメラル)と呼びます。「春のはかないもの」という意味です。

2013.3

ホトケノザ Lamium amplexicaule / シソ科

  • ホトケノザ

畑や道ばたに生える草です。冬を越えて翌年の春咲く、越年草と呼ばれる種類の草に入ります。
ユーラシア大陸から北アフリカにかけて広く分布し、北米に帰化しています。
春先、紫の細長い花が咲きますが、中にはつぼみのまま、花の中の花粉がめしべについて受粉してしまうものもあります。このような花を閉鎖花と呼びます。
中国では、筋骨の痛みや打ち身に対して、薬として用いることがあるそうです。

2009.3

ハッサク Citrus hassaku / ミカン科

  • ハッサクの実
  • ハッサクの葉の表皮細胞

ブンタンなどに近いミカンの仲間です。
1860年ごろ広島県因島で発見された栽培種で、昭和初期には市場価値が認められ、第2次大戦後、栽培が広まりました。5月に花が咲き、陰暦8月1日(八朔)ころから食べられるのでこの名が付きました。しかし、夏にはまだ味はよくなく、3月まで樹上に置くと味がよくなるそうです。観察園の実も美味しくなったでしょうか。
紫の写真は葉の裏側の表皮を染めたものです。

2月のハッサクはこちら

2009.3

メタセコイア Metasequoia glyptostroboides /

  • メタセコイアの若い雄花
  • メタセコイアの果実と種子

1945年に中国四川省で発見され、「生きている化石」として有名な木です。
スギの仲間ですが、秋には赤褐色に紅葉して落葉します。成長は早く、10年ほどで高さ30mにもなることがあります。
円錐型の美しい樹形と、有名なことから公園樹としてよく植えられます。名大キャンパス内にもあちこちに植えられています。春の芽吹きに先駆けて花を咲かせます。

2008.3

モモ Prunus persica / バラ科

  • モモの花
  • モモの葉の表皮細胞

中国原産の落葉小高木です。
以前ヨーロッパでは原生地はペルシャだと考えられていたので、「ペルシアのりんご」という意味の学名がつけられています。日本では観賞用としてのモモが『古事記』や『日本書紀』に登場しますが、果樹として栽培したり品種改良したりするのは江戸時代になってからのようです。
紫の写真は葉の表皮細胞の一部を染色したものです。

2008.3

イチイ Taxus cuspidata / イチイ科

  • イチイ
  • イチイの花粉

木材に粘りけがあるので、一刀彫りや櫛に使われます。
メスの木は、秋に赤いかわいい実がなり、庭木にも用います。

2007.3