おうちで名大博物館

名古屋大学博物館の収蔵品(10)海中のお花畑、石炭紀前期のウミユリ群落の化石

(2021/03/12掲載)

あたかも今にも動き出しそうな姿で見事に保存された沢山のウミユリ化石。この岩盤の上に見られるウミユリは30種以上を数えます。このように大繁栄したウミユリ群落が、古生代の海底に、あたかもお花畑のように広がっていたのです。この化石はアメリカ・インディアナ州北部の古生代石炭紀前期(約3.3億年前)の地層から産出したものです。当時アメリカは熱帯にあり、浅い海には豊かな動物群が生息していました。

ウミユリはウニやヒトデ、ナマコと同じく棘皮動物に属し、古生代にはとても繁栄していました。しかしその後衰退し、現在は深海にほそぼそと生き続けている「生きている化石」として知られています。この化石はウミユリが最も繁栄していた時期のものです。ウミユリは、海底から立ち上がる「茎」とその上に広がる「腕」から構成されています。腕は海底で大きく広がり、海水中のプランクトンや有機物などの餌をとらえて口に運ぶ役割を持っていました。当時さまざまな形を持つウミユリが生息していて、腕の数や茎の長さが異なる種類が同じ海底に生きていたことが分かります。

この岩盤をよく見てみると、沢山のウミユリがどのようにしてこのような化石となったのかが分かってきます。ウミユリは小さな骨格(板や骨板と呼ばれる)からできていて、通常死後、すぐにバラバラに分解してしまいます。つまり海底に土砂が急に積り、ウミユリが生き埋めにならないとこのような素晴らしい化石とはならないのです。また保存の良い化石を見てみると、海底の上側に位置した部分よりも海底の下側に埋もれていた部分の方が良い保存状態の場合が多いのです。これは海底でブルドーザーのように動き回り、海底の堆積物をかき乱す動物が沢山生息しているからです。つまりこの岩盤の保存の良いウミユリは、実は保存のよい、下側の面を見ているのです。実際の地層の上下を逆にして展示している訳です。

さらに岩盤を横から見ていると、ウミユリの岩盤の下側(当時の海底ではウミユリの上側)に砂が堆積しているのが見えます。つまり、これらのウミユリは、多数が海底に生きていた時に、流れ込んできた砂に埋もれて化石となった、ということが読み取れるのです。博物館の化石標本も、それが含まれていた岩石とともによく観察すると、それがどのように生きていたのか、そしてどのように化石となったのか、というストーリーを読み取ることができます。これには時間がかかるので、博物館標本も、何度も訪れて新たな目で見てみることも、面白い発見につながるかもしれません。

大路樹生 (初出:『文部科学教育通信』ジアース教育新社)


写真1 石炭紀のウミユリ群落

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