おうちで名大博物館

名古屋大学博物館の収蔵品(2)球状コンクリーション(地球から火星へ)

(2020/07/07掲載)

砂や泥などからなる地層(堆積岩)中に、炭酸カルシウムや鉄などの成分からなる球状の岩塊がでてきます。この岩塊のことを「コンクリーション」と呼びます(写真1)。とくに炭酸カルシウムを主成分とするコンクリーション中には、保存良好な化石が含まれていることが多く、とくに古生物の研究者でこの存在を知らないものはないほどです(写真2)。しかし、これらコンクリーションの存在は1世紀も前から知られていたにも関わらず、その成因は不明のままでした。

名古屋大学の研究グループは、日本のみならず世界各地で産出する数百以上ものコンクリーションの調査を行ってきました。そして、化石を含む炭酸カルシウムのコンクリーションが、生物起源の炭素と海水中のカルシウムとの数ヶ月~数年という急速な反応で、地層中で自分を包み込むように丸く成長し、内包する生物体が長期に保存されることを突き止めたのです。また、鉄の殻で覆われるコンクリーションについても(写真3)、もともとは炭酸カルシウムのコンクリーションであり、地下水との反応で形成されること。そして、その形成プロセスは、火星の地層中で発見された球状の鉄コンクリーションの成因に適用でき、火星の環境変化の変遷を知る手がかりとなることを明らかにしました。これらの名古屋大学博物館におけるコンクリーション群の収蔵・展示は、日本国内のみならず世界的にも他に類を見ない資料群だと言えます。

岩石や鉱物、化石などの100年以上の歴史を有する地球科学の分野において、未だ見過ごされている現象は必ず存在します。球状コンクリーションは、地球における保存良好な化石を内包する岩塊という意味だけではなく、火星の環境や将来の惑星探査へのつながりとしても新たな役割を担いつつあると言えるでしょう。

吉田英一(名古屋大学博物館)
HP: http://www.num.nagoya-u.ac.jp/dora_yoshida/index.html

初出:『文部科学教育通信』(ジアース教育新社)


写真1:約5000万年前の地層中から産出したコンクリーション群(宮崎県都城市)。

写真2:ジュラ紀のアンモナイトを内包するコンクリーションの断面(左)と表面(右)。コンクリーションの大きさは約15センチ。

写真3:鉄コンクリーション(アメリカ ユタ州)

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