おうちで名大博物館

名古屋大学博物館の収蔵品(4)「家鶏・野鶏解剖学図説」の原図

(2020/09/08掲載)

名古屋大学農学部の家畜解剖学教室では、故・保田幹男名古屋大学名誉教授を中心として、ニワトリの解剖学及び生理学の研究・教育が長年続けられてきました。故・保田教授とその共同研究者らは、ニワトリの解剖図の教科書とすべく、ニワトリの詳細な解剖図を描き、これらをまとめて、2002年に「家鶏・野鶏解剖学図説」(東京大学出版会)を著しました。これは、故・保田名誉教授が退官後20年かけてまとめたものです。本著に用いられた486枚の原画が、2002年に名古屋大学博物館に寄贈され、登録番号(NUM LP001-1486)が付与されました。これらの原図は、ニワトリという動物を表層から深層の隅から隅まで余すところなく観察・記録したもので、ひとつの動物の種の解剖学的特徴を描きあらわした蓄積的資料として非常に貴重なものです。

解剖画は生物の形態的な美を表現することを目的としたものではなく、生物の形態学的情報の理解を助けるためのものです。これは写真で表現できるものではありません。写真は見たままの像が得られますが、不要な情報も写りこんでしまうことがあります。解剖図は、見たまま描くのではなく、強調すべきところは強調し、省略すべきところは省略するといった選別をしつつ、解剖学的基準に則った方向から見たときの生物の輪郭を正確に捉えることを目的としたものです。

486枚の原画に含まれているのは、ニワトリの全体像や、それぞれの骨や筋肉の配置を多方向から描いたものなど、他の動物種の解剖図でも一般に描かれるモチーフにとどまりません。様々な羽毛の分岐、翼や尾羽の配置図、全身の皮膚表面で羽毛が生える位置の分布図、足のウロコの配置、脂肪組織の分布、頭骨の割断面、頭の先から指先までの骨と骨をつなぐ靭帯の付着位置と配置、肺や骨の中の空洞を含む複雑な呼吸器系の配置図、感覚器官、骨に開いた栄養孔の分布、消化器系や血管系、脳を含む神経系の形態や配置図までも含みます(図12)。また、故・保田名誉教授は、長い間バラバラにつけられてきた鳥類の骨や筋肉などの解剖学的名称の国際的な統一を進めていく運動にも参加していました。原図には、それらの解剖学的名称も挿入されています。

当資料は名古屋大学博物館の収蔵庫にあり、常設展示では公開していませんが、上述の「家鶏・野鶏解剖学図説」で全ての図を閲覧できます。

藤原慎一(名古屋大学博物館)
初出:『文部科学教育通信』(ジアース教育新社)


図1.ニワトリの全身図(NUM Lp001-2)

図2.ニワトリの頭部の羽毛が生える位置(NUM Lp001-33)

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