おうちで名大博物館

名古屋大学博物館の収蔵品(5)国産メインフレーム用大容量高速磁気ディスク装置GEMMY

(2020/09/29掲載)

名古屋大学博物館には、1986年に製造された国産大型磁気ディスク装置(HDD)のGEMMYとEAGLE3の精巧なカットモデルが収蔵されています(図1)。

コンピューターの記憶媒体であるHDDは、パソコンから携帯電話に至るまで、もはや私たちの生活とは切り離せないほど身近なものとなっています。このHDDは、回転する磁気ディスクの上を、磁気ヘッドがわずかなすきま(浮上すきま)を介して、極限まで近づいた状態で動くようになっています。磁気ヘッドのコイルに記録電流を流すと、ヘッド先端からの漏洩磁界によって、時期ディスク表面に永久磁石が作られ、情報として記録されます。また、この永久磁石から漏洩する磁力線を磁気ヘッドがとらえると、電流が再生されて、情報を読み出すことができます。磁気ディスクと磁気ヘッドの間の浮上すきまが小さければ小さいほど、それだけ、磁気ディスク表面に高い密度でデータを記録することができるようになり、HDDの大容量化、高速化、小型化、省電力化を実現することができます。磁気ディスクと磁気ヘッドの関係のように、相対運動している二つの表面間の摩擦・摩耗・潤滑状態を研究する学問を、トライボロジーと呼びます。

1956年にIBM社によって開発された世界最初のHDDは、浮上すきまが20マイクロメートルでした。1986年に日本国内で開発されたGEMMY、およびEAGLE3というHDDは、磁気ディスクと磁気ヘッド間のトライボロジー技術や、磁気ヘッドの位置決め技術などによって、浮上すきまを0.20マイクロメートル以下に抑えることに成功し、当時の世界最高性能を達成したモデルとなりました。そして、これらの新技術が、磁気ディスク開発技術の世界的な潮流となっていきました。そして現在(2018年商用機)では、磁気ヘッドの浮上すきまが0.002マイクロメートルにまで抑えられるようになり、世界最初のHDDと比べると、データの面記録密度が5憶倍にまで向上しています。

富士通製のGEMMYとEAGLE3の精巧なカットモデルは、名古屋大学の三矢保永名誉教授が、前職の日本電信電話株式会社の電子機構研究所で研究開発に関わっていたことから、2013年に名古屋大学博物館に寄贈・寄託されました。これらのモデルは、当時のHDD技術の革新性や、マイクロ・ナノ領域のトライボロジーの興隆への貢献が認められ、2013年にトライボロジー学会から「トライボロジー遺産」に認定されました(図2)。

藤原慎一(名古屋大学博物館)
初出:『文部科学教育通信』(ジアース教育新社)


図1.磁気ディスク装置GEMMY(NUM Ta00277).

図2.トライボロジー遺産認定証.

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