研究紹介|Self Introduction of research

1.植物の分布を説明する繁殖干渉の研究

ある生物種がある特定の場所に生息するのはなぜでしょう?
生物の分布という現象は、大きく分けると生態的要因と地史的要因によって起こるといっていいでしょう。多くの人はこの二つのうち一つを研究していますが、私はできれば両方を探っていきたいと考えています。この研究は、まだはじめたばかりです。

生態的要因−生物をさぐる探検−

生態的要因とは、その種自体が持つ性質(環境への適応性など)や、種内・種間の相互作用によってもたらされる要因です。この要因の中には、分布の途中で偶然変化するなど歴史的なものもあるでしょうし、生物によって異なる個別的なものもあるでしょう。しかしその多くには、普遍的法則の存在も考えられます。この普遍的法則として、繁殖干渉という理論に注目しています*。
繁殖干渉とは、他種の介入によって引き起こされる、繁殖過程における適応度の低下を指します。近縁種がめったに同じ場所にいないことは、両者の資源競争・環境適応だけでは説明つかないことが多く、これらの要因に加え、繁殖干渉によって排他的分布に落ち着いた可能性があります。 このような普遍的法則がかかわる生態的要因は、今の生物を観察したり実験したりすることでも、その法則を明らかにすることができます。分布に関わる生態学は、このような普遍性にアプローチできる魅力を持っています。また外来種問題など、現在や将来の問題へ応用する可能性もあります。

*ここでいう繁殖干渉とは、二次的に出会った二つの種が、繁殖において「まちがって」相手の種に干渉することによって、干渉を受けた種の子孫を減らしてしまうという現象です。
この現象は、配偶のメカニズムや器官形態などが似ている近縁種で起こりやすいと考えられます。繁殖干渉が起こると、干渉をより強く受けた種では子孫の数が減り、子孫の世代ではよりきつい干渉を受けることになり(正のフィードバック)、かなり短い世代で分布が干渉に強い方の種に占められてしまうと考えられます(Takakura et al., 2009; Kishi and T. Nishida, 2009; T. Nishida et al., in preparation)。繁殖干渉を生物全般の分布に関わる普遍的要因であると提唱しはじめたのは、京都大学の西田隆義氏(おっと)です。

地史的要因−歴史への旅−

地史的要因とは、大陸移動や山の隆起、氷河期の到来など、いわば生物の外で起こった原因です。その多くは、そのときそのときの「事件」によって起こり方が違う歴史的なものです。このような地史的の要因について、いま研究できるのは当時「何が起こったのか」を推理することです。系統地理学など、各地の生物の遺伝子情報を用いて過去に生じた移動を推理するのは、分布の地史的要因を探る研究といえるでしょう。

普遍性を求め、そこに歴史を重ねる

生物の分布を決める上で、生態的要因は歴史的要因に比べ、多くの生物の分布における共通の原因を説明できます。生物種の分布を決める相互作用の研究は、種のアバンダンス(個体数)を説明することと並んで、生態学の中心テーマでもあります(Krebs, 1972)。そこで、現在私の研究研究は、生態的要因を中心に進めています。しかし、地史的要因も、分布を形作ったという意味では無視できない原因です。それぞれの種の変遷を推理することで、生態的要因のヒントが与えられることも沢山あります。そして、普遍的な生態的要因に歴史的な地史的要因を重ね合わせて議論することは、それぞれの生物のリアルな分布の変遷を探ることにつながります。この二つを同時に調べつつ重ね合わせる研究は、まだほとんど行われていない研究分野です。私の研究室では、このような重層的な研究を進めていきたいと考えています。

実際の研究例

フウロソウ属

フウロソウ属をつかって、野生植物での繁殖干渉を研究しています。

タンポポ

タンポポなどをつかって、外来種との繁殖干渉を研究しています。