研究紹介|Self Introduction of research

1.植物の分布を説明する繁殖干渉の研究:実際の研究例

フウロソウ属を使った、繁殖干渉による分布説明の研究

フウロソウ属の中には、変わった分布をする種や、同所的に複数の種が分布するものの、実際に調べてみると細かく棲み分けしている種があります。これらの種の分布がどのような歴史的変遷を経てきたのか、また、そこに介在する普遍的な法則である生態的要因は何かを探っています。この研究は、まだはじめたばかりのホヤホヤです。

歴史的変遷の研究〜ヒメフウロ〜

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ヒメフウロは、国内では滋賀県〜岐阜県および徳島県の石灰岩地のみに生えている、ひじょうに限られた分布をする植物です。しかし国外にでると、石灰岩地のみならず、さまざまな場所に生育しているそうです。また、最近では日本でも、都市や道路脇などにヒメフウロが見られるようになってきました。いったいどういうことなのでしょう?
現在、研究室では滋賀と徳島から採集したヒメフウロと、国内の各地から採集したヒメフウロ(そのほとんどは有志のみなさんがわざわざ採集して送ってくださいました。感謝感謝です)、海外のヒメフウロ(売っている種子を入手しました)、以上三種類のヒメフウロについて、分子データを使ってその歴史的変遷がつかめないか、研究を進めています。同時に、栽培などを行って石灰岩と国内・国外のヒメフウロの関係、ヒメフウロと近縁種の関係などを探っていくつもりです。

生態的要因の研究〜繁殖干渉による棲み分け〜

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生物の分布を決める生態的要因を考えると、近縁な種どうしが棲み分けているという現象を説明しなければいけないという課題に行き着きます。本来なら同じ生態的ニッチを持っていておかしくないはずの近縁種が、なぜ「すみわけ」をしているのか?この現象は、従来言われてきた「資源を巡る競争」だけで説明することは困難です(Kuno, 1992)。なぜならば、空間的・時間的に変異に富む自然環境下では、資源競争の効果は限定的で、すみわけをもたらすほど強くないと理論的に考えられるからです(Kuno, 1992)。
いま、この生物の「すみわけ」現象を説明する機構として、繁殖干渉理論が提唱されはじめました(前頁参照)。私の研究室では、この繁殖干渉理論に基づいて野生植物の棲み分けを説明できないか、ミツバフウロとゲンノショウコを用いて研究しています。
ミツバフウロとゲンノショウコは、日本全国に広く分布しています。当然、両種が同じ地域に見られることがあります。しかし、細かに生育地を調べていくと、多くの場所で棲み分けが見られます(S. Nishida, unpublished)。この二種の棲み分けを引き起こす要因を、この二種の間に見られる繁殖干渉で説明する試みを進めています。現在、二種の細かな分布調査や同所での結実率の調査、人工交配、栽培実験などを行っています。

タンポポをめぐる繁殖干渉研究

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このほか、タンポポの繁殖干渉について共同研究しています。これまでに、セイヨウタンポポがカンサイタンポポに対して、強い繁殖干渉を及ぼしていることが明らかになっています(Takakura et al. 2009)。カンサイタンポポについては、大阪市立環境研究所の高倉耕一氏が中心になって研究を進めています。私は、トウカイタンポポやシナノタンポポについて、また、実際の花粉干渉の実態について、研究を進めています。タンポポの分子情報については松本崇氏が中心になって研究を進めています。もともとの発案者は、京都大学の西田隆義氏(おっと)です。

関連の論文など

伊吹山のヒメフウロ

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ミツバフウロ(左)とゲンノショウコ(右)

ミツバフウロ(左)とゲンノショウコ(右)
大まかには同所的に分布しますが、詳しく調べると、小規模にすみわけをしています。そのすみわけの仕組みを、繁殖干渉で説明しようと研究しています。

タンポポ

関ヶ原の在来タンポポなどを使って、外来種からの繁殖干渉について調査を進めています。