研究紹介|Self Introduction of research

2.謎の小器官「ダニ室」

葉上の不思議な部屋「ダニ室」

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ダニ室というのは、葉の脈と脈の間にできる、小さな部屋のような器官です。虫こぶと違って植物側が作る器官ですが、何のために作っているのかは分かっていません。
ダニ室には肉食や菌食のダニも見られることから、ダニ室の共生説が今盛んに研究されています。この共生説とは、肉食や菌食のダニがダニ室を産卵場所や避難場所として使い、代わりにこられのダニが葉に害を与える植食性のダニやカビなどを退治しているというものです。たしかに、さまざまな樹種で、ダニ室にこのような共生の機能があるという報告が出ています。
しかしクスノキのダニ室では、植食性と思われるダニが圧倒的に多く見られます。なぜクスノキのダニ室には、葉に悪さをする「悪い」ダニがいるのでしょう?この謎を解くため、私たちはキャンパスのクスノキで2001年より調査をしています。
実際にどんなダニ室が作られ、中にどんなダニがいるのかを調査した結果、クスノキでは1枚の葉に、幾つものダニ室があることがわかりました。そして、葉のどの部分にダニ室ができるかによって、ダニ室の形が違い、形が違うと中にいるダニも異なることがわかりました。
それでも、一番多いダニは、やはり植物に害を与える植食性のフシダニでした。そこで、このフシダニの増減とクスノキの葉の関係を一年間調べてみました。すると、ダニが最も少なくなるのは春で、その理由は、クスノキがダニをダニ室の中に入れたまま、多くの葉を落としてしまうためであることがわかりました。ダニ室の入り口は秋には狭くなり、ダニは中に閉じこめられてしまいます。クスノキのダニ室は、植食性のフシダニを閉じこめて排除する器官である可能性があります。現在、論文を準備中です。
なお、クスノキ科のダニ室の研究では、日本学術振興会の2001-2年度科学研究費補助をいただきました。

そのほか、ガマズミ属の樹木にもダニ室が見られます。その形は、毛が束になったものからポケット型までさまざまです。これらのダニ室についても、その生態や形態について、研究しています。ガマズミ属のダニ室に関しては、日本学術振興会の2006-9年度科学研究費補助をいただきました。

関連の論文など

クスノキのダニ室

クスノキのダニ室(左:葉の表側、右:葉の裏側)
植物が作るものなので、なにか植物にとって役に立っている可能性があります。

フシダニ類

フシダニ類
クスノキのダニ室に圧倒的に多いダニ。植食性と思われます。なぜ植物に害を与えるダニがダニ室に・・?

カブリダニ類(左)とナガヒシダニ類(右)

カブリダニ類(左)とナガヒシダニ類(右)
クスノキの葉に多い肉食ダニ。ダニ室は肉食ダニや菌食ダニとの共生の器官だと考える人は多く、それを確かめる観察や実験の研究はたくさんあります。でも、クスノキでも同じかなあ・・・?