Karroo 系のシルト岩 (Malawi)

◇産地と採取者:マラウィ共和国の Lake Malawi 湖の北西に Livingstonia と呼ばれている 地域がある。そこには,Karroo 系とされている地層群が分布する。1975年,坂 幸恭・矢入憲二によって この地域の調査が行われた(Saka,1977)。ここでは,彼らが採取したシルト岩に焦点を絞って,記述する。

◇分布と産状:アフリカ大陸には,古くから Karroo 系と一括されている 地質系がある。石炭紀後期から,二畳・三畳紀,そしてジュラ紀に及ぶ一連の堆積層のうち,もっとも よく知られているのは,二畳紀初期の Dwyka series であろう。それは氷河堆積物であって,類似の堆積物が インド半島やオーストラリアにも存在が確かめられている。かつてはアフリカ大陸とインド亜大陸,オースト ラリア大陸等が一体となって,ゴンドワナ大陸を作っていた。そして,これらの大陸を覆って大規模な大陸氷河が 発達していたと考えられている。Dwyka series はその証拠である。
Karroo 系の最上部は火山岩からなる Drakenberg volcanics であり, これはジュラ紀初期の産物で,ゴンドワナ大陸の分裂と関係をもった火山活動とされている。
Karroo 系は,石炭等をはさみ,red bed をもつ。つまり,陸生層が多い。また,特徴的なことの一つに siltstone の卓越することが注目される。マラウィの Karroo 系にも siltstone が多く,坂 幸恭・矢入憲二に よって採取された siltstone について,以下,述べることにする。


シルト岩はシルト・サイズの粒子を主成分とする堆積岩である。ここでいうシルト・サイズというのは 人為的に,適宜,決められたものであるが,アメリカで採用されている呼び名が 国際的にも慣用されている。それに従うと,シルト粒子とは,そのサイズが 1/16 mm よりも小さな粒子を指す。実際 にその粒子が集まってできたシルト岩が顕微鏡下でどう見えるかを次の図で示す。

普通の砂岩とシルト岩との違いは,定義によると,ただ,その構成粒子のサイズの差にあるだけだ。それの差を 感覚的に知るために,両者がどのような様相を呈するかを比較する。上図左はタンザニアの Kigoma の砂岩であり, 上図右はマラウィのシルト岩である(Yairi and Mizutani,1969; Saka,1977)。

シルト岩の特徴の一つは,シルト粒子の形にある。上の二つの写真は,比較のために,その倍率を同じにして示した が,右側の赤い○と矢印で示した部分だけを,もっと拡大して見てみよう。


左の図は同じものを倍率を変えて撮影したものである。この図は,形はともかく,シルト岩を構成している 砂粒子はすべて,例外なく,尖っていたり,カド張っていたりしていて,決して丸くなっていないことを 示している。つまり,シルト・サイズの砂粒は,それがこの岩石をつくるに至るまでに,どこかで何らかの作用で磨り 減ったなどということはないように思われるのである。

偶然であるが,視野のなかに入った白い矢印の鉱物片を見てみよう。これは最大の倍率で注意深く観察して,初めて 気づくような小さなものである。おそらく polysynthetic twinning をした斜長石であろう。白い矢印が示す粒子の右 端部が双晶の接合面と平行に直線状をなしていることは,この端部が (010) の劈開面を表している可能性が 高い。また,この粒子の細長い短冊形のもう一つの直線状の端部は,やはり斜長石のもうひとつの劈開面 (001) に 沿って出来た割れ目を示しいるのではなかろうか。

これらのシルト・サイズの粒子の形状は,別項,“砂漠の砂”で述べたことと直接,関係がある。重要な点は, 砂粒はその運搬過程でお互いに触れあい,また,地面に衝突したりして,サイズが小さくなり,カドが取れて 丸くなっていくが,その円磨作用(カドが丸くなる作用:球形度sphericity とは関係はない)には 限界があることだ。ある大きさよりも小さくなると,もう粒子のカドが磨滅することはない。それ故, 何かの機会に小片となったものは,サイズが減少していって小さくなったのではなくて,鉱物の劈開面や その粒子内にある弱線に沿って割れたりしてできたものである。もちろん,細粒の火山岩や深成岩が風化などで ばらばらになるような分解作用(disintegration) によってできた monomineralic grain はシルト粒子として 生まれたもので,それはそのままその形を保ったまま堆積岩になるであろう。このような特徴について, 別の例をマラウィのシルト岩について,見てみよう。
<シルト岩の特徴>