砂漠の砂を実体顕微鏡で観察してみる。その表面は,窓ガラスとして使われている 磨りガラスと同じ細かな“傷”がついていることがわかる。普通の川砂の石英粒は 貝殻状断口(conchoidal fracture) と呼ばれている滑らかなつやのある 割れ口を見せることが多い。そして,そこを通して粒子の内部を透かし見ることが できる。一方,いわゆる“磨りガラス模様 (frosted texture)”が粒子の表面に 見られる場合には,そこで光が乱反射して粒子の内部を見ることはできない。 外部から内部が見えないように考えられた磨りガラスと同じ原理である。
この表面組織は砂漠の砂を特徴づけるものである。それは長い期間にわたり, 風に飛ばされた粒子が互いに衝突したり,あるいは堅い岩石にたたきつけられたり, 何度も何度も繰り返して起こった結果である。そのような現象については,後に もう少し詳しく論ずることにする。
上の写真を見ると,これらの粒子がともに丸いことに気づく。砕屑粒子,とくに, 礫の形については,河川や海浜で直接それを手にとり,また,形を眺めることによって 以前から関心を呼んでいた。カド張った石ころと丸くなった礫,それらが 運搬過程を反映して変わるということはすぐわかる。その形をなんとか 数字にして,その“丸さ”を距離とか時間とかの関数に表せないかという努力が試みられた こともある。
上の写真では,両方ともに,丸いという点では似ている。しかし,左の砂粒は 丸いばかりでなく,球形に近い。他方,球形とはいえない右側の砂粒も丸っこい。 そのような形を区別するために,球により近いことを表す球形度(sphericity)と 角がとれて丸くなったと思われる程度を表す円磨度(roundness) が考えられた。 球形度は数学的に厳密に定義をすることができるという点で,理論的な, あるいは,数理学的な考え方をとる研究者に好んで使われる(Curray,J.R. and Griffiths,J.C. (1955)。一方,実際には,円磨度のほうが実感に近く,現象を よく表しているという点で,直感的な,あるいは,感覚的な学徒に好まれる。 後に詳しく述べるが,ここでは,円磨度を使って考察する。
一つひとつの砂粒は,それぞれに由来がある。場合によっては,別々の異なる 岩石や地層からもたらされている可能性も高い。それらは砂漠の砂の後背地を 考える際に役立つ。ここに例として上げた上記の砂粒については,図に示すような 特徴が見られる。すなわち,その表面に円形の“跡”がついているように見える。 これは,他の丸い物体がこの砂粒に接触していたのではないかと想像させる。 おそらく,石英砂岩 (orthoquartzitic sandstone)がばらばらになった結果できた 砂がこのリビア砂漠の砂になったのであろう。球形度の高い砂粒は,多分, 何度かのサイクルを経て,出来上がった砂粒であろう。事実,この砂漠の 周辺には,Nubia sandstone と呼ばれている石英質の砂岩が広く分布していて, それがこの砂漠の砂のもとになっていたのであろうと思われる。