◇キゴマ Kigoma :タンザニア国の首都,ダレサラームから西方へ鉄道が 走っている。それは,タンザニア国の西端を境しているタンガニーカ湖のほとりにある街,Kigoma まで続く。この幹線の終点でもある Kigoma はこの地域の政治や経済の中心である。
◇試料:左の写真の上から下へ。
@ SM68090305 coarse-grained metaquartzite (タンガニーカ湖畔 Kigari)Bukoban 系,Kigoma
quartzite
A SM68083004a medium-grained sandstone (Kigoma - Uvinza 間)Bukoban 系,
Malagarasi sandstone
B SM68083117 fine-grained sandstone(タンガニーカ湖畔 Bangwe Point) Bukoban 系,Manyovu
red bed 中の礫岩に含まれる礫
C SM68090204 very-fine-grained sandstone (タンガニーカ湖畔 Kitwe Point) Bukoban 系,
Manyovu red bed
◇Kigoma 付近の地質の概要:この地域は,最も古い Ubendian 系と
呼ばれている変成岩類(gneiss, schist, granulite)を基盤として,その上を覆う
Proterozoic の Karagwe-Ankolean 系,Pre-Bukoban 系,そして,その上の Bukoban 系
が主要な地質構成である。Proterozoic は弱変成岩と堆積岩類からなる。
ここに示した試料はすべて Bukoban 系の砂岩である。Bの試料は,礫岩中の礫であり,より古い
地層に由来するが,おそらく,Bukoban 系内のものであろう。
◇Bukoban 系の砂岩の特徴:上に示した砂岩は,その層序学的
位置は別にして,すべて共通した特徴がある。いずれも主として石英からなる
砂岩である点である。長石類とか,あるいは,岩石片などはほとんどなく,また,
粒子と粒子の間(マトリクス)の部分を埋めているものも少ない。
これらのうち@ならびにBは,続成作用や変成作用を受けた結果,再結晶しているが,もとは
いわゆる石英砂岩であったことは明らかである。この4種の砂岩とも,共通して
砂粒の粒径がそろっている。つまり,淘汰が良い。これは石英砂岩という組成から特徴づけ
られる砂岩によく見られる性状である。さらに,砂粒がよく円磨されていることも
共通の特徴といえる。
このような三つの特徴,淘汰がよいこと,石英を主とすること,形が丸いことは Bukoban 系の砂岩をみている限り,ごく普通に認められる砂岩の性質と思われる。 しかし,われわれのように日本列島という変動帯に住んでいる者にとっては, この三つの特徴はむしろ異様に感ずる。比較のために,日本の典型的な砂岩を 次に示すことにする。その前に,上の図の最後のCの極細粒砂岩は,円磨度の高い,つまり 丸い砂粒とカド張った砂粒との2種類の粒子が混在している。これについては, 別項『解説編“砂漠の砂 (Egypt)”』で,詳しく論じたので,その中の議論を参照していただきたい。 具体的には,このCは population II の粒子からなる砂岩と考えられる。
◇日本列島の砂岩:比較のために,日本列島の中で,いわゆる melange terrane を構成する白亜紀の四万十帯の砂岩,および,同じくジュラ紀の美濃帯の砂岩を 下に示す。
日本列島の代表的な砂岩とタンザニアの Proterozoic Bukobanの砂岩を見比べてみると, そこには顕著な対立的な違いがあるのは明らかだ。四万十帯や美濃帯の砂岩は,粒子のサイズが 大小さまざまであり,粒子と粒子の間にも細かな粘土質物質が埋めている(すなわち,淘汰が 悪い)こと,石英ばかりでなく,長石類や岩片などいろいろな種類の砂粒が混じっていること, 砂の粒子はカド張っているものが多い(すなわち,円磨度が低い)こと,といったような性質が みられる。これらの特徴をもつ一群の砂岩は,graywacke sandstone と呼ばれている。この 泥っぽい淘汰の悪い砂岩はいわゆる乱泥流(turbidity current) で運ばれ,沈積したもので あると考えられている。
タンザニアの Bukoban 砂岩のような性質をもった砂岩は,広大な基盤の上に,安定大陸での 長期間にわたる度重なる移動と沈積を繰り返した後に形成されたものである。一方, 短期間に激しい削剥作用を伴った運搬作用で形成される graywacke sandstone は 地殻変動を受けつつある変動帯を後背地にもったところにできる。前者,すなわち, orthoquartzitic sandstone がいわゆる stratigraphic terrane に見られるのに対して, 後者,すなわち,graywacke sandstone は,堆積した場所がプレートの収束帯であることから, その後の変形のために全体が melange terrane となっていることが多い。
ここでは,Kigoma の Bukoban 系の砂岩を例にした。このような砂岩はアフリカ以外にも 存在する。アフリカ以外の安定大陸で形成される砂岩の例,また,日本列島以外の変動帯の砂岩の例を 項をあらためて,述べることにする。