これまで述べたように,砂漠の砂は,そのサイズと形に関して,2種類に分けて考えること ができる。すなわち,粗粒の丸くなった砂のグループ,ならびに,細粒のカド張った砂の グループである。このような2分類に適合しないもの,例えば,粗粒のカド張った砂粒, あるいは,細粒の丸い砂粒はほとんど無い。いや,まったく無いと言っていいで あろう。少なくとも,取り扱った試料に関しては,そのように断定できる。
このようなことはすでに多くの研究者によって気づかれていた。例えば,Roger et al. (1963) は 細粒の砂粒子やシルト粒子は,大きな粒子が順次,連続的に磨滅作用を受けて小さくなる のではなく,大きな粒子が割れて形成されるのだと推定している。また,Kuenen (1960) の 実験的研究は,風送された砂の粒子は,移動している間に磨り減って,その体積が減少するが, サイズが小さなものは,大きなものに比して,体積減少率は著しく小さいことを指摘している。 換言すれば,細粒の砂粒は磨滅作用を受けないと考えられるのである。ここでは,この点に 絞って,考えてみよう。
砂漠のような自然環境では,砂粒がうける物理的変化といえば,それはお互いが衝突すること であろう。そして,その時,砂粒の表面が傷つき,粒子は磨り減っていくであろう。表面にみられる 磨りガラス模様(frosted texture) は,このようなときに形成される。また,粒子 内部にある弱い傷に沿って割れる。その結果,明らかに,その分だけ,粒子は小さくなっていく。
その過程を,厳密に,物理学的なモデルを想定して検討することも
できる。衝突時の撃力がその物質の接触点の強度を越えて,そこを局部的に破壊する。それが
繰り返されて,磨りガラス模様ができる。しかし,粒子のサイズが小さくなるにしたがって,
それが持つ運動エネルギーは小さくなる。空気中の動きであるから,空気の動き以上の
速度で動くことはできない。動きの速度にも限界がある。そして,遂には衝突しても,ただ,
跳ね返るだけになる。つまり何も起こらない。この過程を図を参照しながら,説明すると次の
ようになる。
最初にかなり大きなカド張った粒子があると想定する。初期の状態,つまり,未成熟(immature) の
状態では運搬の過程で,わずかにカドがとれ,また,磨滅されて体積も小さくなる。
それが成熟 (mature) して,つまり,何度も繰り返し運搬されることによって,その間にうける
相互の衝突作用の結果,カドはなくなり,すなわち円磨度が高くなる。注意すべきは,
この過程で,球形度 (sphericity) を論ずることは今のところできない。カドがとれるという
物理学的なモデルは考えられるが,球形になるというモデルは複雑で考えられないからだ。
この一連の過程をここでは “sequentially repeated abrasion 過程” と呼ぶことにする。そして,
この過程で形成される砂粒を総合し,一括して,population I (第1砂集団)
と名づけることにする。このなかには,immature なものでは,カド張った粒子が多い。しかし,
mature なものでは,円磨度の高いものが卓越するであろう。
この population I の砂粒は,とくに immature な段階では,カドがとれる際に,割れてしまって,
それ自身が小さな砂粒になる。また,場合によっては,砂粒が2つに,あるいは,
3つのより小さな部分に割れることもあろう。この場合,新しくコーナーができる。そして,
それはよりカド張っている。こうして,よりカド張った,しかし,やや小さい粒子が新しく
生まれることになる。これをここでは “chipping from larger grains 過程” とする。
もし,『そのサイズがある大きさよりも小さくなる』 と,もう互いに衝突しても,単に反発するだけで,
カドがとれたり,丸くなったりしなくなる。つまり,no abrasion であり,no maturation の
状態になる。このような砂の粒子を一括して,population III (第3砂集団)と名づける
ことにする。
この一連の変化過程からわかるように,population III の砂粒は,一度,何らかの作用で 新しく生まれると,それ以降,もうサイズの変化も形の変化も起こらない。それに対して, この中間にある population II の集団は,その親である population I,ならびに,その 娘である population III の砂粒との混合したものだ。それは maturity にしたがって, さまざまなサイズと形を持つことになる。このような砂粒のサイズと形の関係を,成熟度 (maturity) を 考慮して整理すると,きわめて成熟した過程 (supermature) では,population I の砂粒から もう population III の砂粒をつくることはなくなり,砂漠の砂は population I なら びに population III だけの砂から構成されることになるであろう。
以上のことを念頭において,もう一度,リビア砂漠の分析結果を見てみよう。
最初にわれわれは,便宜的に,この砂は Group A (粗粒の砂)と Group B (細粒の砂)に
分けた。しかし,砂漠の砂の形成過程を考えながら,その図を見直してみると,この Group A は
どうも,population I に属する砂集団のように思われる。一方,Group B は population III に
属する砂集団ではなかろうか。
さらに,もう少し,厳密に言うと,Group A と Group B の間にその中間のものを
考えたほうが良いと思われる。サイズは,phi-scale でいうと,2 すなわち,
1/4mm 前後のサイズをもつ砂粒はどうも population II とみなしたほうが良いように
見える。
ここで重要な点を強調しておこう。リビア砂漠の砂の場合も,また,砂の population analysis に
ついて考えた場合も,『砂粒があるサイズよりも小さくなると,もうそれは abrasion も受けず,
maturation も関係なくなる』 ことである。この場合,そのサイズとはどの程度の大きさ,あるいは,
細かさであろうか。顕微鏡下で砂質堆積岩を観察した研究者は,そのことにそれとなく気づいて
いた。そして,そのサイズが 0.15mm (Pettijohn, 1957), 1/10 - 1/17mm (Tanner, 1956),
0.2mm (Swineford, 1955) などという値が考えられている。これ以上細かなものは,それよりも
粗い砂粒とは形状が異なるのである。リビア砂漠の例では,Group B の
うち,上記の population II と考えられる部分を除くと,問題のサイズの値は,明らかに 2φ より
細粒と考えられ,上の図から 2.5 -2.6φ のあたりになると推察される。この値は
普通の長さの尺度で表すと,0.165mm - 0.177mm となる。 Swineford (1955) や Pettijohn (1957) が
提唱した値と似ている。
この値は,現在,慣用的に用いられている砂の名称に従うと,very fine sand から silt に
かけてのサイズになる。換言すれば,very fine sand より細かな主としてシルト・サイズの
砂はそれより粗いものとは形成過程が異なると考えられるのである。
水谷(1987)は“日本の堆積岩”の中で,シルト岩だけを別に取り扱った。3ページ足らずの説明であったが,
シルト,および,それが固結したシルト岩は,他の砕屑岩とは別に扱うべきえあるとの主張が
あったからであった。その主張の一つのよりどころは,リビア砂漠の砂にみられる砂粒のサイズと形状の関係において
見られる事実であった。このような議論は,別項(タンザニアの砂岩の項,および,マラウイのシルト岩の項)で,
再びとりあげる。参照されたい。
なお,これはあくまで石英粒を対象として考えたものであることを 付記しておく。衝突現象を論ずるときに重要な要素はその物体の破壊強度である。対象となる 物体の硬度や破壊強度が異なれば,当然,そのカドのつぶれ方や傷の付き方は異なってくることはあらためて 強調するまでもない。