スイス,ジュラ山脈の石灰岩

地質時代の一時期がジュラ紀と呼ばれていることからわかるように,スイスからフランスにかけて 延びるジュラ山脈には,ジュラ紀の地層が広く分布している。整然と積み重なった地層が 褶曲してつくりあげている地質構造は,構造地質学的にも有名で,古くから多くの教科書に紹介され,よく知られている。

この褶曲構造は,いわゆるジュラ型褶曲と呼ばれ,最下部には滑りやすい物質からなる面(デコルマ 面)をもったいわゆる foreland fold and thrust belt の典型的な例である。ヨーロッパアルプスの主要部が,低角 衝上断層を伴った大規模な圧縮性の変形作用によって形成されたとき,その北部において,この ジュラ山脈の褶曲構造ができていった,と解釈されている。

地表調査によって明らかにされたジュラ山脈の内部の褶曲構造は,その後,ここを貫くトンネルの 掘削によって,確認されたといわれている。地質学が実学として,社会に役立つ具体的な例として話題に されることがある。







ジュラ山脈は,石灰岩,頁岩,砂岩からなる地層群からなる。そのうち,石灰岩は,いわゆる 魚卵状石灰岩 (oolitic limestone) が多い。この石灰岩は,ooid と呼ばれる同心円状の方解石の微結晶からなる 球状体が多数,集まって形成されたものである。写真は,ジュラ紀中期を特徴づける oolitic limestone の例で, ooid と ooid の間もまた方解石によってうめられている。

その形から想像されるように,ooid は方解石が沈殿する条件下で,波打ち際などのような水の 動きによって砂粒や動物の骨格の一部などを核として,それ自身が転がりながら,丸く成長していって出来る。 時には,2個の ooids が一体となって,1個の ooid となったものもある。環境を考えると,ooids の間隙を埋める 物質も,当然,方解石が多い。しかし,よくみると, ooid をつくっている方解石とその間隙 (matrix) を埋めている 方解石とは,結晶の大きさがまったく違う。間隙を埋めている方解石は,この石灰岩が堆積したあとで,続成作用の過程で 再結晶したものであろう。

中近東の海岸の一部には,このような ooid が現在分布していることが知られている。



ヨーロッパのジュラ紀の生層序学的研究は,おそらく地質学の分野では最も古い歴史があり,詳細に検討されて いて,化石・岩相・分布などの記載は多くの文献によって報告されている。それぞれの地域について報告されている 個々のデータを地図にまとめると,古地理図ができる。しかし,ヨーロッパのジュラ系について,それをまとめると なると,文献に記載されたデータがあまりにも詳しく,地域もまた狭い範囲を扱って居るものが多いので, 総括的な古地理図をつくるとなると,その仕事は,厳しい取捨選択を迫られる。ここに示す古地理図について, 著者は “ stark verallgemeinert(著しく一般化されている) ”と注を記入している。

この図から明らかなように,ジュラ山脈のジュラ紀層と地中海地域のジュラ紀層とは環境が著しく異なる。 この時代の石灰岩相がひじょうに広く分布していたこと,ならびに,堆積岩相としては顕著な差がある地域と 対立的に存在していたこと,などを論ずるために,その現世における実例として,スイスの地質を論じた K.J.Hsu(1994) は,フロリダ半島とバハマ諸島との関係を挙げている。すでに述べたアフリカ大陸に分布するジュラ 紀層も考慮に入れると,かつて現在の Great Barrier Reef に相当するような広範な地域にわたって,石灰岩相が 卓越していたのであろう。


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